キムチ工場襲撃
昼すぎの工場は白衣に帽子のような姿の従業員が工場をリズミカルに動く。
とまれ!
とまるんだ。
何人かが私を凝視する。
どうみても関係者じゃない。
そりゃそうだ。
横浜大洋の帽子に、横浜博覧会の白地シャツ。
しかも、ピリッと糊の効いた下ろし立てのワイシャツ。
ちょっと腕捲り。
玩具の拳銃の威力はわからないが、駄菓子屋のオヤジの推薦だ。
しかし、その拳銃の軽さからか、工場の2割程度しか反応がない。
おい!聞け。
俺はキムチを奪いに来た。
幸せのキムチの出来たものを出せ。
このクーラーに入るだけ入れるんだ。
私は「俺は釣り名人」シールの貼られた、釣りで使っているクーラーを差し出した。
班長のような男は、メッシュカバーの向こうの瞳で私を軽く流し、クーラーを持って奥へ消えた。
その間、従業員は何もいわず静止画像のように停止していた。
クーラーを持ってきた班長は、何も言わず手渡した。
私は待たせたタクシーに足早に向かった。
達成感からか、私は急速に腹が減り、クーラーを開けつまんでしまった。
うまい。うますぎる。
運転手さんちょっと食べなよ。
いやいや、仕事ですし。
キムチ愛のない運転なんて、なんて不幸なんだ。
私は桜咲く川べりを見つめながらそう思った。
あぁ、そんな妄想だけで凶悪な広域指定キムチ強盗犯罪に手を染めることなく、無事にスーパーで購入することができた。
人の心も一寸先は闇である。